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【1979】Kai Band CIRCUS & CIRCUS 1979

1979サーカス&サーカス
もう「HERO」でノリにノリまくる1979年のCIRCUS&CIRCUSツアーのパンフです。
ツアー日程は3月の群馬音楽センターから、6月の銚子市青少年文化会館までの前半戦を示しています。
3月に「HERO」が収録されたベストアルバム「甲斐バンド・ストーリー」がリリースされ、同月15日には満を持してベストテンに出演。この時点で3位であったものの、ようやく実現したTV出演は視聴率30%を超える反響を得た。
それと同時にTVに映し出された甲斐の態度に顔をしかめる視聴者もいるという、この時代を象徴するような出来事でもあった。
裏表紙にはSEIKOの広告がある。そこにはこう書いてある。
「HERO マーキークラブからニューウェイブの風が吹いてくる。タイトなR&Rのリズムに乗って闇夜を切り裂く陽光が新しい一日を劇的に告げる。昨日までのメロウ・ボーイにグッド・バイ。僕たちの時間が輝きだした。ヒーローになる時、それは今 セイコークォーツ。若さの世界にSEIKO」
うーむ、このHEROを使ったメディア戦略は練に練った感じがしてなかなかカッコいい。
パンフレットの裏表紙にこうした広告が載るのは初めてみたかも・・・中にはあってもね。

中には相川和義さんの「どこかとてつもなく遠くを見つめているような気がして」が掲載されている。
激しく動きだしたバンドの「今」を象徴的に表しているような文章だ。 また、週刊セブンティーン、ビックリハウスなどでの甲斐よしひろのインタビュー記事からMESSAGE主張が29個のキーワードで語られている。
1979年後半のパンフレットにも同じ趣向の言葉が記載されているが、内容が違うのと多くのキーワードで語られているので貴重だと思う。

   どこかとてつもなく遠くを見つめているような気がして・・・:相川和義

 甲斐バンドは、ライブ・バンドだ!それはだれも否定できない事だと思う。
では年間どの位のコンサート活動を行っているのだろうか。おそらく昨年1年問で120本近いステージを消化しているだろう。
ひとロに120本と言っても1年365日で割れば、何と3日に1日の割でステージに立っている事になる。
もちろん実際には、ツアーで行うからもっとハードなスケジュール活動している事になるだろう。
それに加えてライヴ/サーカス&サーカス』、そして甲斐よしひろのソロ・アルバム『翼あるもの』『誘惑』と3枚のアルバムを発表しているが、オリジナルは『誘惑』の1枚だけである。
こうしたデータだけを見ても、甲斐バンドがいかにライヴに力を入れて活動して来たかがわかる筈だ。
 ところで、最近の甲斐バンドに興味を持っている連中の80%以上は、おそらくレコードによって彼らの魅力に取りつかれたものだと思う。
それは単に「HERO/ヒーローになる時、それは今」が、大ヒットしていると言った現象的な事で言っているのではない。
 甲斐バンドの魅力のひとつに都会の持っている独特の暗さ、冷さなどのある種の危険性やスリル、そして、ほんの一時の暖かさといった都会の華やかさの中でうごめく人間模様を見つめながら歌を歌っているというのがある。
そうした歌を歌いながらもステージで観せる甲斐よしひろの目は、どこかとてつもなく遠くを見つめているような気がしてならない。
甲斐バンドは都会を歌う事によって一体何に向っているのか。たぶん自分の思いを捨てずに時代とのスピード競走を演ろうとしているように思われる。
時代に勝つか、負けるかだ。そして、この果てし無きスビード競走には、とてつもない緊張感が必要とされるだろう。
 ライヴ・アルバムを除く『誘惑』以前のアルバムには、甲斐よしひろのアイディアが先行してしまっているという感じで、何かが今ひとつ足らずに、この時代とのスピード競走は、甲斐バンドにとっては不利な形で進行して来た。
その不足していた何かを見事なまでにライヴ・ステージにおいてカヴァーし、プラス・アルファまでをも創り出していた。
だからこそ、ボクはアルバムを聴いていた時よりも、ライヴを見た時に、より強いインパクトが感じられたし、ショッキングなものに思えたのだった。
ところが、この『誘惑』において甲斐バンドは、ついに時代とのスピード競走に一歩先んじたわけだ。その最も代表的な仕上を見せているのが、シングル「HERO」なのだ。このレコードは、今までのようにライヴを観なくても十分すぎる位のインパクトが感じられるし、ライヴにおける緊張感や、一種独特のしびれるような雰囲気も感じさせてくれている。
加えて、聴き手なりのイマジネーションをも働かす事を可能にした。だからこそライヴを一度も観た事がない人でも、レコードによって甲斐バンドの魅力を十分知る事が出来たのだと思うのだ。
「HERO」によってヒーローになった甲斐バンドは、今、甲斐よしひろに松藤英男、大森信和、長岡和弘が一団となって走り始めている。今年は、今まで以上に素晴らしいステージがきっと観られる筈だ。


   MESSAGE 主張 甲斐よしひろ

俺たちのことを話す前に
 今、どうしても言っておきたいことがある。それは、最近の日本のロックって、サウンド指向に走りすぎだってこと。
バックサウンドだけがすごくカッコ良くて、中身がまるっきりないよ、そのくせ、メッセージソングだとか、若者の心を代弁しているんだなって言ってる。おかしいよ。まちがってるね。
だから俺は言いたい。”おまえらメロディばっかりで、曲がいいわけじゃないんだぞって・・・。
花屋やカフェテラスの中で、恋愛ごっこしてるような、オブラートに包んだ愛の歌なんか、少女マンガじゃあるまいし、メッセージになるわけじゃない。
もういいかげんにしてほしいよ。男と女の愛なんて、そんなきれいなものじゃないはず。もっと挑発的でタフなものなんだ。


ロック
 歌っている人間の顔が見えずに歌だけってのがポップスで、歌っている人間の顔、生きざまが見えるのがロックだ、と思う。
だから、俺たちの歌もその意味でロックだと思っている。


日本語
 日本に住んでて日本でやるなら日本語で歌わなくちゃ最低限だめだと思う。せっかく歌の詞があるんだからある程度のメッセージっていうか、アタックが絶対必要だと思うわけね。
なぜ歌詞があるか、みたいなところをみんながだんだん忘れかけているじやない?たしかにね、車に乗ってカセット入れて、窓の風景と一緒に後ろに流れていく歌も言葉もいいんだけど、そればっかりじゃ生きられないんじゃない、やっぱり。


ラブ・ソング
 俺にとって一番感じられるものは男と女の歌でさ、ラブ・ソングを歌っていきたい。しかも自分で素晴らしいと感じられるものをね。
ありきたりの男と女の話じゃなくて、もっとおどろおどろした部分を歌いたい。ラブ・ソングを歌いながら風景のちょっと向こうに社会とか今っていう部分がチラッと見えたらね、すごいと思うわけですよ。


存在感
 近頃はロッドスチュアートを聴いていたんだけど、存在感と歌って違うじゃない?存在感がすごいやつでも歌になったらとたんに女々しくなるやつはいやなの。存在感もある程度認めるけども、歌の勝負みたいなとこで聴くんだ。
たしかにロッド・スチュアートなんかすごいうまいとと思うけど、精神みたいなとこだったら、ミック・ジャガー。シンガーの部分だけきいても、何年かたつと飽きるじゃない。 だから、ロッドも好きなんだけど、でももっとミックみたいな生きざまを俺はめざしてる。


初恋
 初恋って夢みたいなもんで、何年か後に思い出して何となく嬉しくなるようなさ、それでいいんだよね。
すごく美化しちゃって夢として食べたい気がする。


恋愛論
 話した後できれいに見える人っていいと思うなァ。にじみ出てくるものがある人。僕の好きになった女ってみんなそんな感じだったよ。
いろんな面で感化されたし、感化したと思ってる。
感化し合わなければ、そんな恋愛、嘘だと思うし、だいたい反応のない恋人同士なんてまるでつまらんもんね。お互いストレー卜に物を言い合ってさ、下らない妥協はしないに限ると思う。本音をさらけ出した付き合いをしたい。


レディーファースト
 人のことを枠にはめて考えるのは嫌いだから、あまり男とか女とか区別しないけど、何でもレディーファーストなんてのは「冗談じゃない!」と思うよ。
たとえば、エレペータ一に乗るとき、思わず「どうぞ」って言いたくなるような女と、絶対言いたくない女とがあるじゃない?ハッとするような気品とか、手のひっこめ方が可愛かったとか。
だから、レディーとして扱うてほしかったら、そういうふうになれって言いたいよ。


仕事
 だけどさ、こういう仕事をしているとその絡みが恋愛面でも出てくるね。男の意地や見栄みたいなもんで、仕事が納得いかなければある一つの区切りがつかなければ恋にも打ち込めないような感じ。
中途半端なみっともない姿を女の子の前にさらけ出したくないってな一種の突っ張り。言い訳はしたくないんだよ。
納得した恋愛をするためには、納得のゆく仕事をしなくては駄目だと思うんだ。


映画
 映画は中学校の一年の時から月に一本は確実に見てる。
その時ば洋画ばっがりみてた。日本映画は大作みたいなのと・・・錦之介が好きだったですね。あの人は拳銃を出すわけね、ダビン・ダピンって。
あれを見て面白いと思ったのは何年後かのマカロニ・ウェスタンに通じてるわけよ。「荒野の用心棒」見た時におんなじ感じがあったのね。
それでマカロニ・ウェスタンは凝ったもんね。そもそも親父とお袋がすごい映画好きでちゃんと子供達四人連れてゆくわけ。
帰りのラーメンが僕は楽しみで・・・マンガ映画しか覚えてない。フランス映画はスゴイ好きだった。


出演
 僕は、映画を撮りたいとは思わないけど、非常に出たいですね。しかも主役じゃなくて、昔、浜由光夫がチンピラ役やったでしよ、銀座なんか歩いてて肩があたって「ぱかやろ気をつけろ」っていう役とか市川崑監督の「股旅」でね、破傷風でコロっとだらしなく死ぬ、そういう役がやりたいね。
汚れ役のが絶対いいっていう感じ。だらしないところのキチンと光る感じがあるでしょ。


TV
 テレビには出ないよ。テレビは出るもんじゃなくって見るもんだから。
「コンサートに行けないからテレビに出て!」っていわれるけど、オレは逆に”コンサートに来い!”って言っちゃうね。


エネルギー
 育ったところは、博多のどまん中。環境に恵まれていてね、すぐそばに遊郭が並んでた。
四つくらいの時かなァ、お姉さんたちがズラーッと座って前の木戸にボールをぶつけて遊んでたんだ。そしたら”坊や!おやめなさいっ!”ってお姉さんにひどく叱られたことがあった。
その時の何とも言えない彼女の悲愴な顔、今でも忘れられないね。僕が歌を作る時って、自分の底の底までにほじくり出すようなもんだからさ、不思議といろんな思い出が交差するんだよね。
その遊郭のお姉さんのどうしようもなく切ない顔もその一部になって、歌を作る時のエネルギーになっているんじゃないかな。


博多
オレとかチューリップがアマのとき出演してた”照和”っていうライブハウスがね、去年の11月につぶれちゃったんだ。
おまけにライオンズも平和台を去った。いや、冗談じゃなくってさ。これじゃ博多っ子の文化がなくなっちゃうよ。
オレたちさ、ナゼか地元じゃ不人気だったんだよね。「あいつらァ東京のバンドじゃあ」てなもんでね。ま、最近はそうでもないけど。でもオレを支え続けたのは、アマ時代に100円コンサートにつめかけてくれた850人の博多っ子の心なんだ。
だから、オレ博多でレコーディングするよ。録音機材なんて16チャンネルじゃなくて、4チャンネルなんだよな。でもオレLPには「博多にて収録」っていれるよ。”手のひらにのる想い”大事にするよ。


演歌
 歌謡曲は、もうものすごく好きです。かなり演歌人間です。だけどちょっと醒めてるけどね。
ロックとかフォークとか歌謡曲なんていうジャンルは物書きがきめたとこがあるじゃない?俺達にしたらどうでもいいわけ、だから感じる歌が欲しいんです。本音みたいなのを。
西田佐知子の「アカシアの飴がやむとき」とか、「東京ブルース」とか「昭和枯れすすき」もう大好きですね。


カレーライス
 カレーライスはよく作る。本格的にルーから作るんだよ。小麦粉をバターで炒めてね。
でも、男の作る料理ってやっぱり贅沢なのかな。マーケットで牛肉のかたまり買ってきて、堅かったりするとそれでやる気喪失。
ポイって捨てちゃったりするもんね。やー、のどかどのか。



仲間といっしょに酒を飲むのもこれまた大好き。ビール、日本酒、ウィスキー何でも酒ならいい。
酒を飲むと陽気で楽しくなるからね。好きな曲を聴きながら、ワイワイ仲間と酒盛りするのはこたえられませんですな。
ドラムの奴と飲むと、ウィスキー一本三十分であけちゃうよ。水割りならホワイト、ロックならジョニ黒がいい。博多名産の辛子明太子なんかあったらもういうことない。


地下鉄
 俺、実は地下鉄って乗れないんだよね、ひとりで。
どれに乗ればどこへ行くのか、まるで覚えられない、2年半もいて、なんか関心のないことは覚えないというか・・・。
そのくせ、洒を飲みにいくと、すぐその店の常連みたいになれる。これは特技だな、ウン。


生活
 旅じゃなくて生活なんだよね、ツアーは、だから色々な奴と話もしたいんだ。
一番仲がいいのはビュッフェのお姉ちゃんや社内販売の女の娘や、駅の立ち食いそば屋のおばちゃんだ。
彼女たちは素敵だよ。すごく普通にそこに居てあたりまえのような顔をして僕らと話してくれるからね。


ステージ
 ステージやってて、死んでもいいと思ったことがあるよ。観客が前にワッと押し寄せてきて、二階席もみんな立ち上がってさ。
そんなステージってものすごく疲れて、消耗しきっちゃうけど最高にいい気分。
ステージで歌って踊って走って汗びっしょりになって、エネルギーとことんまで使い果たしてさ、アンコールには最後の力をふりしぼって這いずって出たいね。


仲間
俺はメンバーの音楽性を完全に信じきってるんだ。松藤はキーボードも、ギターも弾ける強力なドラマーだし、大森は俺の一番敬愛しているギタリストだし、長岡も俺達のバンドにピッタリなべーシス卜だと思ってる。
だから手を抜かれたり少しでもズレを感じると徹底的に怒るしおたがいそれを考えることのできない位困惑してしまうまでひきずりまわすし、積木をこわすようにボロボロにぷちこわす時もある。
でもそれができるのはみんな信じ合ってるからだと思う。


練習
 俺は練習の時が一番大事だと思うんだ。明日、あの町で俺たちを待っている奴の事考えたらうかうかできないと思うわけ。
だからこまかいことまですごく怒るしね。それがないと前に進まないと思うし、俺達の音楽を聴いてくれる奴に悪いなあと思うからね。


100%
 それと、あといくら客が少なくて乗らなくても、メンバーやスタッフ・・・俺以外の18人をめいらさせないようにしているんだ。
そのためには100%満足できるステ−ジをやらなきやいけないと思うし、照明やP.Aのスタッフが一生懸命やってるんだから、あいつらのためにも絶対完全燃焼してやろうと思うんだ。


突進
 やりたいことやって常に熱くありたいって思うんだよね。ホットな自分をさらけ出して生きたいんだ。
いつも何かにかりたてられてさ。それがなくなったらもうおしまいだ。
自分でやりたいこと見つけて、見つけたら迷うことなく突進すること。これが、やりたいことをやる方法論だと思うんだ。
目的がなくちや生きられない。で、いったんこうと思ったち妥協は許されない。
どうしてもゆずれない部分ってあるじゃない。それゆずっちゃったら負けだからね。


80年代
 60年代の終りというのは闘争に向ける「何か」があったりしたと思うんだ。
外に向ってたと思うしね。でも、現在はすごく内向的だと思うんだ。俺は70年代に流行った「フィーリン」という言葉と、「ニュー・ファミリー」という言棄がすごく嫌いなんだ。
あれは確めることができないんだ。言っちゃうと、それでおしまい…という感じがするから俺は言用できないんだ。
さわってみて…にぎってみて、確かめられる言葉しか信じないし、それしかないと思うんだ。80年代というのはまさにそれだと思うんだ?


自己主張
 よくDJでも言うんだけど、争うことをきついって思ったら駄目。
生きていくために必要なことは絶対ゆずっちゃいけないよ。
それが自己主張になるんだもんね。


課題
 燃え尽きるまでやれるかどうかが僕の課題。瞬間瞬間に爆発するエネルギー、このまま死んじまっても後悔しない、そんなステージやっていきたい。
僕らの神様ローリング・ストーンズのミックも常にホットなステージを展開してるでしょう。
ビートルズも好きだけど、ストーンズのほうが格段グッと迫ってくるもんね。


甲斐バンド
 甲斐バンドみたいなバンドは今、どこにもない…と思うんだ。
テクニックどうのこうのじゃなくて、自分の気持ちをすべて吐きつくし、メッセージを外に向けて放ちつづけているバンドって絶対に俺たちだけだと思うんだ。
良い悪いじゃなくて、俺たちはすペてを出しつくしたから、もう後ずさりは絶対にしない。


人生
 最後まで熱くありたいって思うんだ。そのうえでプロとしての誇りも考えたいね。金に見合うステージやっていきたい。
このまま死んでも後悔しないっていうくらいステージで消耗すること。それがプロとしての誇りだと思うよ。
一生懸命生きることと切ないことってイコールなんだよな。